アイウエアの販売本数で日本一を誇る株式会社ジンズでは、場所と時間にとらわれずゆっくりとオンラインでメガネを選ぶことができ、店舗に来店すると待ち時間なくメガネを受け取ることができる新しい生活様式に配慮した新サービス「CLICK&GO(クリック アンド ゴー)」(以下C&G)を、2020年10月13日(火)から開始しています。

C&Gの業務・システム面の全体設計、サービスを支えるDX業務アプリの開発、移行局面を含めた全体計画/PMOサポートを、株式会社フルフィルメンツが共同で実施させていただき、サービスのローンチを迎えることに成功しました。
C&Gのプロジェクト進行にまつわるエピソードを同社デジタル本部の皆様に伺いました。

新サービスの構想

FFL 小松 早速ですが、このサービスを立ち上げるにあたって、どういった経緯や課題感があって始めたのか教えてください。

JINS 向殿 デジタル本部の向殿です。当社は日本全国に450店舗以上 展開していますが、店舗に来店されるお客様の購入モチベーションが圧倒的に高い。JINS全体の CX を考えても、WEBで完結する施策ではなく、店舗をからめたOMO(Online Merges Offline)施策がフィット感が高いであろうと考えていました。 WEB起点のデジタル化を進めていく中で、店舗とのコンバージョンの違いは悩みの種でした。アプリをハブにしてデジタルとリアルをシンプルにつなげるサービスができないかとずっと考えていました。 というのも、 2007年にECを始めて14年以上 経ちます。最初の10年かけて集まったEC会員が200万人、かたやアプリは2017年の立ち上げから1年で200万人強の獲得、足掛け5年で1200万人と、伸び率が全く異なります。メガネの購入での満足度はほぼ2回目以降の購入につながるので、そのときにいかに便利に購入いただくか という視点で考えました。今までもアプリから ECに誘導してそこでお買い物をしてもらう導線がありましたが、購入体験から考えるとお客様側の操作にサービスの連続性がないなと感じていました。例えば、再度ECサイトとしてログインしないといけないとか。2回目以降の購入では、前回と同じ度数でメガネを作る場合、基本的にフレームを選んでから後は前回のカルテをアプリから参照して選択できますから、決済ができればあたかもお店で買い物をしている世界観でアプリで購入ができて、都合のいいときにお店に行ってメガネができているという体験が実現できるかなと。

また、現在のECサイトの購入では、加工センターでの加工になるので店舗の受取の場合であってもメガネのお渡しまで5日程度時間がかかってしまうのですが、C&Gでは店舗在庫からメガネを作成するので当日、早ければ注文後1時間程度でお渡しができるようになります。この点も、お客様の購入体験を店舗の体験とシームレスにつなげることにつながったと 思います。

ワンストップのサービスづくり

FFL 小松 ではシステム開発のお話しに入っていければと思います。まず始めに、システム化に当たっての課題感と弊社を選定いただいた理由について教えて頂けますか?

JINS 原 まず課題感として、店舗のシステムとオンラインの EC のシステムには別々の世界観があって、それぞれ別のプロセスで動いているんですね。C&Gはお客様が商品を選んで決済するというところはオンラインでお客様主導ですが、その後のプロセスは店舗の業務です。既存の仕組みからするとまったく連携していないところを組み合わせないといけない。当然、既存のシステムの使えるところは使いながらも、新規の業務プロセスを作っていかないといけないということになります。 ここが難しくて、既存システムの使い回す範囲と新規に作り込む部分の切り分けに悩みました。新規のプロセスやシステムというのは、作ってしまうと店舗オペレーションに恒常的な負荷がかかりますし、新規部分が大きくなれば開発コストも増えていきます。とはいえ、大胆に新規プロセスを導入しないと業務が回らなくってしまうかもしれない。システムと業務をつなげる落とし所というのはなかなかに難しいところです。 システムライフサイクルを考えると、業務システム側は安定させたらあまり改修を行わずにしっかり運用していきたい。かたやお客様向けのフロントシステムは、更新頻度が多くなってくる。当社はグローバルでビジネスをしておりますので、グローバル共通化という視点も加味しながら、システムの詳細レベルの機能配置を考えていきました。 フルフィルメンツさんは、バックエンド寄りでしっかりした仕事をしてもらえる印象があったのと、フロント設計や業務設計含めサービス設計全般ができるという印象がありました。C&Gは経理系のオペレーションも含めて本当の意味でOMOのサービスなので、WEB系が得意とか、部分・部分が得意な会社さんは多いのですが、ワンストップでやってもらえるという意味ではなかなかいない。上流に強いコンサル系の会社さんもありますが、最後の泥臭いデリバリーのところまで一緒にやれるというイメージがあって、お声がけさせていただきました。 選定は複数社さんに提案をお願いしましたが、提案内容に一番妥当性があって、無理がないと感じたのがフルフィルメンツさんで、開発パートナーとしてお願いをさせてもらう運びとなりました。

FFL 小松 当社を選んでいただきありがとうございます。弊社からのご提案内容で具体的によかったポイントがあれば教えていただけますか。

JINS 原 私たちの方で、PoCのイメージでまずはライトに始めたいという思いがあり、LINE WORKSを使ってDX業務アプリを作ることを検討していました。この方針でやれますかということで提案をお願いしたのですが、フルフィルメンツさんからは「無理です、スクラッチで作るべきですね」と即答されました(笑)。 フルフィルメンツさんと議論させていただく中で、業務プロセスの整合性は十分机上で検証することができて、PoCとしてシステム開発をするのではなく、ウォーターフォールでシステムを作って店舗におけるトライアルフェーズをしっかり作っていった方がよいと考えるに至りました。提案段階から最終的なサービスとしてよいものを作ろうという意識でずばずば言ってもらえたのはよかったです。当然LINE WORKSを使おうと思っていた際に描いていたコスト感よりもスクラッチのコスト感は高くなってしまいましたが、PoCとして作ったアプリを作り直すという手間は発生しなかったので、結果的にコスト高ではなかったと思います。いまサービスがしっかり動いているのをみるとスクラッチで作っておいてよかったなと感じています。 あとは、連携システムとの役割分担、インフラの作業分担等など提案段階から具体的な提案をもらって調整ができたので、プロジェクトのキックオフがとてもスムーズにできたと思います。アプリでC&G向けの画面を作る必要があり、WebViewにするかNativeにするかということが議論になりましたが、UXを追い求めるサービスということでNativeにした方がよいといった基本的な情報だとかインサイトを頂いたこともとても助かりました。

FFL 小松 では次に、開発プロジェクトでのエピソードをお伺いできればと思います。

FFL 島村 フルフィルメンツ島村です。開発側プロジェクトマネージャーを担当させていただきました。エピソードという意味では、プロジェクト開始早々に山がありました(笑)。 サービス全体設計という意味では弊社も関わらせていただくことでプロジェクトキックオフを行っていましたが、当社のシステム開発スコープでいうとDX業務アプリを作ることが主眼に置かれていました。プロジェクトはマルチベンダでタッグを組んで実施しましたが、アプリ側の要件を整理していくと当社でアプリ向けのAPIも作った方がシステム的なアーキテクチャ、ベンダごとの担当範囲の割り振りを考えると適切そうだということがわかりました。プロジェクト開始2ヶ月弱で、開発スコープが倍くらいになりました。 まき直す期間はかなりばたばたしましたが、全体スケジュールの調整もPMOの立ち位置から当社でご提案してすり合わせができましたので、無理なく進めることができました。

MNNK 渡邉 デザイナーの渡邉です。店舗のスタッフさんは日々業務が忙しい中での対応になると思ったので、C&GのDX業務アプリとして大切になってくる「今、その注文がどのステータスになっているか」を一目でわかるようなUI/UXを作ることにこだわりました。ステータスが細かく分かれていて細分化が必要でしたが、シンプルさを失わずに、出来る限り自分のいる場所を見失わないような工夫をしました。店舗に配布されている端末が iPhoneSEの画面サイズの比較的小さな端末だったので、業務の視点でファーストビューに入れる物が何かなど議論を重ねました。視認性を担保するため、なるべくフォントサイズを落としたくなかったので、優先度の低いものは大胆にカットするなど強弱をつけていきました。

JINS 原 デザインはすごく綺麗に、またオペレーションを気にして作って頂いて。おお、これはと。本当に一切指摘がありませんでした。サービスローンチ後店舗からも改善事項等挙がってきておらず、クオリティに脱帽でした。

MNNK 渡邉 よかったです!

FFL 小松 本プロジェクトは、ちょうど新型コロナの影響が出ていた時期に開発を行っていたと思います。リモート対応も多くなってきたと思いますが、プロジェクトを進めるに当たって気にしたこと、大変だったことなどあれば教えてください。

JINS 原 当社は開発ベンダ各社さんもリモートワークに慣れているメンバが多く、特に支障はありませんでした。唯一、DX業務アプリとPOSとの連携、感熱紙プリンタを使ったテスト等の総合テストは当社の開発ルームで実施する必要がありましたね。思い返すと、去年はこのテストをしたタイミングの一回しか島村さんとは直接顔を合わせませんでしたね(笑)。

FFL 島村 当社もリモートワークが元々多いので、実機系の対応は工夫が必要でした。今回開発はベトナム拠点で行っていましたが、実機連携周りはオフィス出社メンバーで分担して対応するなどチーミングを工夫しながら進めていきました。

JINS 原 複数の分散型のシステムがある中でサービスを構築したので、結合テストは思った以上に大変でした。テストコンディションの調整が肝になりました。フルフィルメンツさんには全体の業務理解をいただいて当社側の立場で音頭をとってもらいました。テスト結果をどう解釈するのかというところまで踏み込んで対応いただいて、大変助かりました。 移行フェーズでは店舗を限定したパイロット展開を行ったりと慎重に進めて行きましたが、いわゆるQCDを「ユーザー側として」意識した実効性の高いプロジェクト推進をご実施いただけたと思います。コストと期間を絶妙な塩梅でかけていって、品質担保につなげてもらえたと思います。

今後のお話し

FFL 小松 最後に、全体の振り返りや今後の展望等お伺いできればと思います。

JINS 原 今回、単に指示されたシステムを設計して作るだけではなくて、全体の業務・システムアーキテクチャ共に仕分けを一緒にやってもらえたのはとても助かりました。C&Gサービスの構築が当社との始めての取り組みでしたが、この短期間で既存の業務・システムを理解いただいたうえで的確なアドバイスまでいただけたのはフルフィルメンツさんならではだと思います。 全体PMOとしても入っていただきましたが、私たち発注側が至らないところもあったりする中で、先んじてプロジェクトの未来予測をして課題感を出してもらって早め早めの打ち手をとっていくことができました。やっぱりプロジェクトを進めていくと いろんなことが発生して、スコープ変更が入ったりすると結構みんながあたふたすることもあるんですけど、そういったところも踏まえて最後の形にするところまで持っていっていただけて本当に感謝しています。 システムを作ることは私たち事業会社としては始まりなので、この仕組みを活用しながら、お客様に寄り添ったより良いサービスを作っていきたいと思っています。

FFL 島村 今回新規開発のスコープで動いてまいりましたが、当社はシステム運用のフェーズも強みとしておりますので、今後の新しい取り組みも含め、引き続きご支援させていただければと思っています。